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仙台高等裁判所 昭和33年(ラ)91号 決定

抗告人 金沢昇

主文

原決定を取り消す。

理由

本件抗告理由の要旨は、原告遠藤雅雄、被告抗告人間の福島地方裁判所相馬支部昭和三一年(ワ)第二〇号貸金請求事件は、職権で調停に付されたため、同裁判所での昭和三一年一二月一八日の口頭弁論期日は開かれなかつたから、同期日の口頭弁論調書は作成されないはずである。しかるに、昭和三三年九月八日にいたり抗告人は右期日の口頭弁論調書が作成されており、その内容は抗告人にとつて甚だしく不利であることを知つた。しかも、その後同調書に変造などがされていることも判明した。よつて、抗告人は、同月二七日同裁判所に対して異議の申立(口頭弁論調書無効の申立)をしたところ、同裁判所は、同年一〇月七日の口頭弁論で右申立を却下した。よつて、右却下決定を取り消し、更に相当の裁判を求めるというにある。

さて、わが民事訴訟法は、口頭弁論については裁判所書記官が期日ごとに調書を作ることを要するものとしている。右は、訴訟手続の安定と明確とを期するためのものであるから、いつたん調書が作成された以上、訴訟手続そのものが紛争の原因となつて審理の混乱遅延の生ずることを防止するために調書に絶対的信用を付与することが当然に要請される。それゆえ、民訴一四七条は、口頭弁論の方式に関する規定の遵守は調書によつてのみこれを証することができる旨を規定し、他の証拠によつてこれを証することを禁じたのである。しかしながら、右は調書が偽造、変造されたことの証明までをも禁じたものとはとうてい解せられない。けだし、同法条は調書が適法に作成されたことを当然の前提としているものと考えるべきものだからである。したがつて、当事者は口頭弁論調書が偽造または変造されたことを主張し得るものというべく、この主張がされた場合には、裁判所は判決でこれが判断をすべく、決定で判断すべきものではないと考える。けだし、口頭弁論調書は前述の如く極めて重要な意義をもち重大な機能をはたすものであるから、その有効、無効は、口頭弁論そのものの存否の証明にかかる重大な結果をもたらすものであるし、これを決定で判断し得る旨の規定が存しないからである。

ところで、原告遠藤雅雄、被告抗告人間の福島地方裁判所相馬支部昭和三一年(ワ)第二〇号貸金請求事件記録によると、同裁判所昭和三三年一〇月七日午前一〇時の口頭弁論で、被告(抗告人)は、同年九月二七日付口頭弁論調書無効の申立書(その内容は抗告理由に同じ。)にもとづいて陳述したところ、裁判所は、右申立は理由がないからとて却下の決定をしたことが明らかである。右は前記のとおり決定で判断すべきものでないのに決定をした違法があるから。これを取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤規矩三 鳥羽久五郎 羽染徳次)

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